入れ物
孤独の嵐
のっぺらぼう
冬の空で
旅人
あくび
自画像
枝に
勇気をください
木
生かされている
僕は今を生きている
深呼吸
詩人の切なさ
同じように過ごしても
感じることが違う毎日
晴れの日 雨の日 くもりの日
平和な町に
男はひとりで佇んで
例えば
転げ落ちる大玉
光が消えるネオン
増えていく手のしわ
その他もろもろのことを
見つけた瞬間
こころに何かがひっかかる
しかし
ものは流れ
人も流れ
気持ちも流れ
誰も止められない
誰も思い出せないなんて
男の胸に悲壮感の墨が落ちる
その瞬間を
ひとつの言葉で彩るまでは
その瞬間を
この目で切り取るまでは
そんな使命感引っさげ
男はただ一瞬の美しさを
愛そうとする
自分の国を作るような征服感を持ち
誰にも通じない
未来への自分にも理解できない言葉を
探すのだ
それが芸術ってしたり顔
本当は
その瞬間にすでに
こころは流れてしまっていること
男は知らないふりをしている
悲しい少女
赤みの挿した頬
少し膨らんだ胸
寄り添う笑顔
まだあどけなさを残しつつ
小さな幸せを握り締める少女
誰にも気づかれず
密かな恋をして
息を大きく吸い込み
澄み切った海にもぐりこむ
深海で初めて見たのは
夢の国
美しい神秘
少女は美しさに惹きつけられ
泳ぎ続けた
息が続く限り どこまでも
そして神秘の秘密を解き明かしたとき
水面に上がって
周りを見渡してみる
しかしそこには誰もいない
地球の真ん中
少女は戻れないほど流されてしまった
時間という波にのまれて
少女はひとりの女になってしまった
自分すらわからないうちに
砂浜は遥か遠く
方角もわからない
水の砂漠 孤独な世界
少女は恋を求めて
もう一度 水にもぐった
神秘の世界は
もう見えなかった
絆
さようならと
彼が唐突に言った
これからは他人ね
彼女がしっとり答えた
昨日まで抱き合っていた彼ら
急に言葉はとんがった
沈む太陽の淵
スプーンの先っぽに
こぼれる涙と
いつか二人で作ったカレーライス
ありがとうと
季節は変わり
二人は記憶の旅に出た
水槽の中
群れて泳ぐ魚の目玉から
笑顔を掬い上げる彼と
肌寒い空の下
鎌倉の大きな煎餅に
ぬくもりを感じる彼女がそこにはいた
星が出た熱帯夜
もう一度と
波の音が聞こえる渚で
二人は少し大人になった
二人三脚で漕いだボート
月明かりが差し込む最上階
滝のような花火を見上げ
宇宙みたいな不自由な心で
触れ合う右手 左手
なつかしい絆
それはじっとできない世界の二人には
我が家のシチューみたいだった
昨日と明日
ゆりかごと墓場
自分と命
そんな具をたくさん詰め込んで
二人は未来まで走ることにした
何度でも手をつないで
story
僕がまだ幼いころには
女の子の美しさ
おっぱいの柔らかさ
恋心の酸っぱさ
その他もろもろの色鮮やかなものに憧れていた
そんなとき たまたま
素晴らしそうな君と出会って
欲しかったおもちゃは全部手に入った
付き合い始めることで
だけどある日
とても幸せな午後に僕は気づいた
何かが欠けている
まるで新しい服が欲しくてたまらないように
僕はそわそわし始めた
思えば今やっていることは
あたりまえすぎた
映画館 美術館 動物園
波乱はなし
綺麗すぎる部屋では居心地が悪かった
だから旅に出ることにした
一切合財 全てを投げ捨てて
身軽すぎる格好で
勝手な一歩を踏み出す
荷物を持って戸を開けた瞬間
すぐに夕日が部屋の中まで入ってきた
それは紅葉のように切なくて
立っている自分が妙に溶けてしまった
結局 次の日
僕は彼女と水墨画展に行った
薄すぎるほどの墨の色が
二人とも一番良いと言い
僕たちはそれから夕食を食べた